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もう一度行ってみたい  十河和夫記

海外旅行体験記/記録

前回はファイサーイからルアンババーンまで下ったが、

今回は、メコン川を遡った。メコン川の源流チベット高原に近い雲南省に僕たちは向かった。

2.タイ族の故郷、景洪(ジンホン)

景洪はタイ族が古くから住む土地で、西双版納(シーサンパンナ)とも呼ばれている。旅行前に読んだ「雲南、赤い大地」(劉岸麗)では、雲南はジャングルで覆われた貧しい少数民族が住む土地として描かれていた。1960年代、毛沢東は「上山下郷(農村下放)」の方針を打ち出した。都市に住む青年を辺境の地に下放させる改革運動だ。作者の劉も16歳になるとその呼びかけに応じて雲南に下放する。当時の雲南はとてつもなく貧しい僻地だった。劉も、あまりにも貧しい農村で驚いたと書いている。青年たちは理想に燃えていたが、現実は過酷な労働と思想闘争に疲れて挫折した者も多かった。しかも、農村の貧困を無くすための開拓が、権力闘争に利用された不毛の闘争だったのだ‥。

まあ、そうした知識を前もって仕入れた上で「景洪」にやって来たのだが、来て見てビックリ。僻地どころか大都会に変身していたのだ。

まず、僕たちが宿泊したのはホテルではなく民宿だ。インターネットで予約したので民宿の意味を理解していなかったのだが、要はコンドミニアムの一部を貸しているのだ。民宿といっても、部屋は広くて清潔。部屋からはメコン川が一望されて眺めは最高。ロビーには共用の冷蔵庫があり、料理も出来るレンジやコンロもある。コーヒ・茶類は用意されている。それだけではない冷蔵庫にある缶ビールも無料(これには感動した)。ランドリー設備もある。旅行者にとって嬉しい設備が完備されているのだ。中国では、ホテルよりも民宿という選択もあると思った。そして、この民宿を経営しているのは若い女性だ。若い世代が新規事業に積極的に挑戦する。これが新中国なのだろう。

さらに驚いたのは、スマホの普及だ。メコン川の土手で開催されている夜市の屋台で、BBQを食べビールを飲んだのだが、現地の人はスマホで払っている。店の前に掲げられているQRコードにスマホを当てるだけ。それで終わりだ。中国ではキャシュレス化が進んでいると聞いていたが、それを目の当たりに見てしまった。

次の日は川沿いのビヤバーに行った。クラフトビヤーが美味しそうだったので入ったのだが、ここではもっとビックリした。戯作風に書くとこうなる。

「旦那はん御料さん、こちらの席で並んで座ってくだい」と丁稚が案内した。

「そうか、川が眺めらていい席ではないか」

「それは、もう特等席でおます。まず飲み物から伺いましょうか」

「そうじゃな。それにしてもまずメニューを見せてもらわんと、何を注文していいかわからんではないか」

「旦那、ボケては困りますがな。ここにQRコードがありましゃろ」と丁稚が机の上にあるカードを指差す。

「ここにQRコードがあると言われても。とにかくメニューを持ってきて欲しいのじゃ」と言うが、丁稚は無言。

「これ、丁稚どん。こちらは上方の客やおまへんか。上方の人にQRコードというてもわかりまへんがな」その時、突然番頭が現れて取りなしてくれた。そして、自分の持っている携帯小型コンピュータ(スマホ)を取り出して、QRコードに当てる。あら不思議、画面にメニューが現われた。

「番頭はん、すまんがわての携帯(スマホ)では、それが出来んのじゃ」

「そんなことわかってま。わてのスマホを使って下さい」チャンチャン!

驚いた。メニューから注文、そして勘定まで全てスマホで管理しているのだ。便利といえば便利なのだが、「未来都市ブラジル」に迷い込んだような不気味な思いだった。(続く)

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コメント

  1. 高田幸夫 より:

    戯曲風の会話から情景がよくわかりました。なかなかのテクニックですね。ありがとうございました。

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