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世界文学紀行(11)パリ・モンマルトル 十河和夫 記

随筆/雑記

『壁を抜ける男』マルセル・エーメ著 山崎庸一郎訳 昭和37年10月30日初版

               世界短編文学全集7(フランス文学20世紀)に収録

映画には読んでから観るか、観てから読むか?という台詞があるが、文学散歩では圧倒的に読んでから現地に行くことが多い。しかし、旅行中に偶然物語の舞台と出会うことがある。たとえば、日本では(僕だけかも知れないが)有名でない小説の場面が彫刻されていたりして観光化されている広場などにばったり出会ったりする。これはいったい何なのだろうと触ったり撫でたりして彫像に聞いたりするのだが‥。それが全く答えてくれないので日本に帰国し、本箱の奥をひっくり返してそれが誰であるかを探し出した。壁に閉じ込められているのは「デュティユール」というモンマルトに住む43歳になる男だった。

国民的作家マルセル・エイメ(Marcel Ayme 1902-1967)が暮らしていたことから”マルセル・エイメ広場”と名づけらた広場の壁に男は閉じ込められている。

これを作ったのは、俳優・彫刻家のジャン・マレー。顔はマルセル・エイメを、そして手は最愛の人であった偉大な芸術家ジャン・コクトーを模して(豪華!)、この彫像を作り上げた。

この小説がパリの人に愛される理由は、ラストエンドにあると僕は感じた。

「デュティユールは、壁の内部に凝結したようになってしまった。そして彼は、石と一体になったまま、いまもそこにいるのだ。パリのざわめきが鎮まった頃おい、ノルヴァン街をくだって行く夜遊び人たちは、墓の彼方から聞こえてくるような、声にならぬ声を聞き、ラ・ビユットの四辻を吹き渡る風の嘆きと思い込む。(中略)冬の夜々、画家のジャン・ポールは、ギターを壁からはずし、あわれな捕われびとを歌でなぐさめてやろうと、ひとりしずまり返って、音を響き伝えるノルヴァン街に、わざわざ出向いて行くことがある。その調べは、彼のこごえた指先をはなれて、月光のしずくのように、石の内部にまでしみ込んで行くのである。」

モンマルトルには、もう一つ有名な壁がある。今やあらゆる国の人が愛を叫んでいる「ジュテームの壁(Le mur des je t’aime)」だ。

300以上の言語で綴られた愛の言葉の壁に圧倒されてしまい、恋愛や愛についてつい考えてしまう悲しい男でがんす。

随筆/雑記

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