世界文学紀行(3)タイ・バンコク 十河和夫 記

随筆/雑記

『暁の寺・豊穣の海(三)』三島由紀夫 新潮文庫 平成19年2月10日 52刷

『豊饟の海』は輪廻転生の物語だ。物語は、主人公・本田繁邦の目を通して四巻の作品に「転生」が事象として確認されていく。第一巻の最終行で、松枝清顕

は臨終の床で本田にこう述べる。「今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」。その二日後に清顕は二十歳で死んだ。

第二巻『奔馬』では、松枝清顕が臨終の床で述べた通りの状況・滝の下で飯沼勲に出会う。

本田は、ふと少年の左の脇腹のところへ目をやった。そして左の乳首より外側の、普段は上膊に隠されている部分に、集まっている三つの小さな黒子をはっきり見た。本田は戦慄して、笑っている水の中の少年の凜々しいかおお眺めた

勲はクーデターを企て事前に発覚。本田の弁護により釈放された勲は財界の黒幕を刺殺、自身も切腹して果てる。

三島の文体は硬くて読みにくいが、読み進んで行くに従って夢中になってしまう不思議な魅力がある。だから、三巻『暁の寺』も続いて読みたかったのだが、旅の楽しみでとっておいた。

2020年3月、メコン川を巡る旅行に、僕は『暁の寺・豊穣の海(三)』の文庫本を携えて旅行していた。旅行中に読もうと持ってきていたのだが、読み始めたのはサイゴンからバンコクへ帰る機中からだ。

小説の書き出しは次のように始まる。

バンコクは雨期だった。空気はいつも軽い雨滴を含んでいた。強い日ざしの中にも、しばしば雨滴が舞っていた。しかし空のどこかには必ず青空が覗かれ、雲はともすると日のまわりに暑く、雲の外周の空は燦爛とかがやいていた。驟雨の来る前の空の深い予兆にみちた灰黒色は凄かった。その暗示を孕んだ黒は、いちめんの緑のところどころに椰子の木を点綴した低い町並みを覆うた。

雨期のバンコクの様子が鮮やかに描かれている。

三島の筆は、続いて幻想的な暁の寺をこう描写する。

近づくにつれて、この塔は無数の赤絵靑絵の志那皿を隈なく鏤めているのが知れられた。いくつかの階層が欄干に区切られ、一層の欄干は茶、二層は緑、三層は紫紺であった。嵌め込まれた数知れなぬ皿は花を象り、あるいは黄の小皿を花心として、そのまわりに皿の花弁がひらいていた。(中略)メナムの対岸から射し初めた暁の光りを、その百千の皿は百千のちいさな鏡面になってすばやくとらえ、巨大な螺鈿細工はかしまく輝きだした

ぼくも早朝に暁の寺(ワット・アルン)を訪れたが、三島のような感性で寺を見ることは出来なかった。ただ、いやに陶器が嵌め込まれた寺だなという感想しか残らなかった。

旅のアドバイス

・ワット・アルンへは、チャオプラヤー・エクスプレス・ボートがお薦め。BTSサバーン・タク      シン駅で下車すれば、ボート駅サートンに連絡している。

・ター・ティアンでワット・アルンへの渡し船に乗り換える。このター・テァン船着き場にある水上レストラン(タイ食堂)がお薦め。チャオプラヤー川の向こう岸に見えるワット・アルンを眺めながらビールが飲めるゾウー。ビールはチャン(象)がいいかも。

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