海外・国内の旅行、長期滞在好きの仲間が集まったサークルです

世界文学紀行(1) 十河和夫 記

随筆/雑記

世界文学紀行という名で旅行体験記を書いていきたいと思います。

コロナで海外旅行が制限されて、行きたい都市に行けない状態が続いています。

新たにLSCに入会した会員も戸惑っておられるでしょう!

こんなはずではなかった。現地で経験された知識・経験を聞くために入会したのに‥。

そういわれても、今はどうしようも出来ないですね‥‥。

でも、Lscには経験や知識を持っておられる人は沢山います。

そんな先輩に体験談聞きたいと思いませんか?

時間が無いという言い訳は、今は通用しませんよ。

なんといっても、コロナで時間だけはたっぷり与えられたのですから。

”旅の技術の伝承”あるいは”ロングステイの伝承”。

これこそ、Lscが次世代に伝えていくべき課題だとぼくは思っています。

ありがたいことに、体験や知識を伝える場として、このホームページが存在しています。

老人もといシニアは説教ではなく経験を語るべきです。

で、まずこの指止まれの先頭として、シニアの僕が文学旅行した経験を書きます。

次に続く会員を持っています。

世界文学紀行(1) ベトナム・サイゴン

マルグリット・デュラス著『愛人(ラマン)』清水徹訳 河出書房新社 1988年9月10日 24版発行

ラマンの舞台となるベトナムに旅したのは、2020年2月14日~3月7日の「メコン川を旅する」旅の途上だった。

僕たち夫婦はプノンペンからメコン川を舟で下ってカントーまで来た。

ラマンの舞台は、隣町のサデックとヴィロンだ。

主人公と言うより作者デュラスは、休暇中は母のいるサデックに行き、休暇が終わるとサイゴンの寮に戻る。

この物語は、サデックからサイゴンに戻る場面から始まる。

十五歳半。それは河の横断だ。サイゴンに戻るとなると、旅をすることになる、とくにバスを使うときは。あの朝わたしは、母が校長をしている女子小学校のあるサデックからバスに乗った。

デュラスはヴィロンに行き、渡し船に乗る。彼女は、この船上で、リムジンに乗る上品な男にじっと見つめられて、こう思った。

わたしはもうわかっている。何かを知っている。女を美しく見せたり、見せなかったりするのは服ではない、念入りなお化粧でもなく、高価な香油でもなく、珍しく高価な装身具でもないということを、わたしは知っている

その男はデュラスに話しかけてリムジンに誘い、サイゴンまで送る。

サイゴン大教会(聖母マリア教会)

次にサイゴンで会ったとき、彼女は「愛人(ラマン)」になるのだが、その時の様子をこう描いている。

シュロン地区の一室に男は娘を連れ込む。しかし、この時デュラスは知る。男の弱さを。

彼女は男に言う、あなたがあたしを愛していないほうがいいと思うわ。たとえあたしを愛していても、いつもいろいろな女たちを相手にやっているようにしてほしいの

彼は言う、自分はひとりぼっちだ、彼女にこれほどの愛を抱きながら、おそろしいほどひとりぼっちだ。彼女は彼に言う、わたしもひとりぼっちだ。

男は、それでも彼女に触ろうとしない。デュラスは、つまり、ことは自分が決めることなのだと知る。

この小説は女性が性愛も恋愛も主導権を握っていると書いているのだ。それも、十五歳半の処女が、三十代の男に向かってだ!。

男は女性が決めたことに従う、母親に従う従順さのようだ。

デュラスはその男を彼とか名前で呼ばない。常に男という普通名詞だ。デュラスにとってその男は普通の男でしかない存在だった。だが男にとって愛しているのは固有の女なのだ。

この小説が女性に圧倒的に支持されている理由がこれだ。この女性自立の強さが支持されるのだ。

しかし、この性愛には金銭が絡む。男には金があり女は金を必要としていた。

わたしたちは、たがいにじっと見つめ合う。彼はわたしの身体を抱きしめる。なぜわたしがここに来たのかとたずねる。そうすべきだったの、義務のような感じだったと。わたしは言う。わたしたちが話すのは、これが最初だ。わたしは兄がふたりいるという話をする。うちにはお金がないということを言う。

それ以後、シュウロンの愛人が毎晩毎晩娘の身体に味わう悦楽は、彼の時間、彼の人生を巻き込んでいく。

華僑が多く住むチョロン地区

ビンタイ市場

デュラスは十七歳になるとフランスに帰国する。彼女は船上で男は自動車の後部座席で見送った。

彼女にはあの車だとわかった。見動きひとつしなかった。彼女は、渡し船の上での最初の出会いのときのように、手すりにをついていた。彼が自分をじっと見つめていると、彼女は知っていた。彼女もじっと見つめていた

二人の関係はこれで終わった。

サイゴン河から船旅でフランスへ

しかし、デュラスは小説の最後でこう書いている。

戦後何年かたって、何度かの結婚、子供たち、何度かの離婚、何度かの書物のあとで、男は妻を連れてパリに来た。男は女に電話した。(中略)男は女に言った、以前と同じように、自分はまだあなたを愛している、あなたを愛することをやめるなんて、けっして自分にはできないだろう、死ぬまであなたを愛するだろう

私は男を忘れた。でも、男はいつまでも忘れていない。そう書きたかったのだろう。

この小説の題名「愛人(ラマン)」の意味は、読む人によって違ってくる。

僕には「愛人(ラマン)」とは金で買われた娼婦といういう意味では無く、「愛された人」という意味でデュラスがつけたのだと思う。

旅のアドバイス

サデックに行くには、ホ・チミン市からカントーまでVIPバスが運行している。

日帰りではなく、カントーで一泊することを勧めます。カントーの街は旅人を優しく迎えてくれます。

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