世界文学紀行(12)タイ・ソンクラー 十河和夫

随筆/雑記

『深夜特急2マレー半島・シンガポール』沢木耕太郎著 新潮文庫

僕の一人旅の教科書は、沢木耕太郎『深夜特急』だ。この本で、ぼくは一人旅の・厳しさ・出会いを大切に・引き際が大事・等々、いろいろなことを教わった。

本の中で紹介された町の中でどうしても行きたいと思った町がある。それが「ソンクラー」だ。

沢木耕太郎が、バンコクにはもうこれ以上いても仕方がないとシンガポールに向けてマレー半島縦断鉄道に乗った第5章に、この町が紹介されている。

食べながら、いろいろ質問された。齢はいくつだ、どこから来た、タイは気に入ったか、バンコクはどうだった‥‥。

「バンコクは、とにかくやかましい街でした」

 私が答えると、二人は笑いながら大きく頷いた。

「これからどこに行くんだい?」

ひとりが訊ねてきた。

「チュムポーン」

「どうしてまたそんなところに?」

「別に目的なないんですけど‥‥」

実は沢木耕太郎も、この町はシンガポールまで行くために適当に切符を買っただけで、目的も理由も無かったのだ。

「チュムポーンの次はどこへ行くんだい?」

手の甲に刺青のある男が言った。

「まだ決めていないんですけど‥‥」

「それなら、ソンクラーに行くといい」

「ソンクラー?」

私が訊き返すと、もうひとりの男が引き取って答えた。

「ハジャイの近くの港町さ」

私が中途半端に頷くと、刺青のある男が付け加えるように言った。

「綺麗な海岸があるんだ、パタヤなんかより、ずっといい」

そういえば、旅に出てから。まだ一度も泳ぎに行ったことがない。海もいいな、と思った。

「ソンクラーはいいぞ‥‥」

刺青のある男が夢を見るような調子で呟いた。それを聞いた瞬間、私はソンクラーに行ってみたくなった。チェムポーンの次はソンクラーだ。私は目的地がひとつできたことを喜んだ。

そうなんだ、一人旅とはまず出会が大事なんだ。そして、そこで目的地を貰う。すべてを計画して旅行することも楽しいかもしれないが、計画なしの旅は出会いから始まるのだ。

そして、目的地に到着して運命的な出会いにぶつかることもある。

沢木耕太郎は相乗りタクシーでソンクラーの海岸までたどり着く。そこで、日本旅行客と出会い、彼女らが宿泊していたホテルに宿泊し夕食も一緒にして楽しい時間を過ごす。

しかし、沢木は「翌朝、ソンクラーを発った」。沢木はこう書いている。

前夜、夫婦とは結局十一時近くまでバーにいた。私は思う存分日本語で話せるのが楽しくて、香港やマカオまでの出来事を陽気に喋りつづけた。(中略)ベッドに入り、冷静に考えてみると、このサミラー・ホテルにもう一泊するのはよくないのではないかと思えてきた。金の心配もあったが、こんな快適な宿に何泊もしていると、安宿を泊まり歩いて前に進んでいくのがいやになってしまわないかと不安になったのだ。

ぼくは、このエピソードから多くの事を学んだ。

まず、一人旅では出会いが大事だが、それを出会いだとキャッチする嗅覚をまず持つことの方が重要だ。

次に、楽しい出会いは「一期一会」が原則。その瞬間を大事にする。沢木の場合は、次の日にホテルを発っている。目的は旅、出会いはオマケなのだ。引き際も大事なのだ。

三つ目に、見た目に偏見を持たない。刺青をしていようがいまいが外観に惑わされてはいけない。言葉の真剣さを聞くことが大事。

まあ、文書で書けばこうなるが、どうもしっくりしない。ようは、理性ではなく感性を磨けということなんだろう。

2012年、外務省から常に危険地域だと勧告が出ているタイ南部のソンクラーに旅した。

随筆/雑記

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