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私のお薦めグルメスポット 吉崎愛子・十河和夫

随筆/雑記

吉崎愛子がお薦めする店。天王寺・居酒屋「明治屋」

この店は二十歳の時、愛子に教えてもらった。飲み助の父親がよく通っていた居酒屋だそうだ。天王寺駅前スクランブル交差点から阿倍野筋を堺方向へ進行方向右手の通りを10分ほど歩いた場所にあった。僕がその当時通っていた「丸一屋」「赤のれん」などの居酒屋とは違う佇まいがあった。

暖簾を潜って木戸を開けて中に入ると、右手にカウンターが、左手にはテーブル席が、その奥には本当に小さな小上がりがあった。天井角の『常富大菩薩』の提灯と神棚。日本酒の樽がデンと鎮座していた。客が日本酒を注文すると栓を抜いてちろりに注ぎ熱燗器で客の好みの温度に温める‥。

当時の僕には別天地の店だった。愛子は子供時代から通った店で慣れていたようだが、ぼくはそこに行くと背伸びして佇まいを正して飲んでいた。酒を飲むとはどういう事かということを漠然と教えてくれた店だった。ぼくが、何とか酒を飲んでも荒れないのは(荒れたときもあったが)この店で、酒は一人でちびちびと味わって飲むものという酒飲みの美学を知ったからだと今になって思う。
あれから50年。青年、中年、老年時代と通ってきたが、店の雰囲気はいつ行っても変わらない。 じつは平成22年10月に再開発の際に1度閉店している。その時は残念に思っていたのだが、翌年の4月に『あべのウォーク』1Fで以前の店をそのまま再現して営業を続けてくれている。ありがたいことだ。

阿倍野筋にあった昔の店舗 あべのウォークに移転しに移転した店舗

お薦めする理由だが、味、値段、雰囲気、それとこれが何よりも大事だと思うのが年期だ。いつ訪れても変わらないという安心感だ。すごくいい店だと思っていた店が、5年後に行ったらすっかり変わっていたということはよくあることだ。それでは、つい最近行った店でないと人にお勧めすることは出来ない。しかし、この「明治屋」だけは安心してお薦めできる店だ。

大阪市阿倍野区阿倍野筋2-5-4 『あべのウォーク』1F

十河がお薦めする店。「なんば法善寺 串・くわ焼き「たこ政」」
くわ焼きとは肉や野菜などをたれにつけ、鉄板(またはフライパン)で焼く料理。古く、農作業の合間に、野鳥や野菜を鍬(くわ)の上で焼いたのが始まりと言われている。
この店は会社の先輩に連れて行って貰った。仕事に失敗して落ちこんでいたときだった。先輩が「時間あるか、美味しいところがあるんや」と声をかけてくれた。連れて行ってもらったのが、道頓堀にあった「たこ政」だ。カウンターだけのこぢんまりした店だったが活気があった。ぼくが今まで行ってい居酒屋とは違う雰囲気だった。うまく表現出来ないのだが、高度成長時代のまっただ中のサラリーマンが集う店、議論しているような賑やかさだった。

そこで、初めて穴子のくわ焼きを食べさせてもらった。美味しかった。こんな美味しい物があるのかと感嘆した記憶は今もはっきりと覚えている。その時の僕は十代後半で食い気が先行していて、とにかく量がある物を食べ歩いていた。同期入社の者といつも行っていた店は「551の蓬莱」で、そこで豚まんと焼きソバを食べるのが楽しみだった。それが、先輩達は僕たちとは全く違う物を食べていた。今で言うなら「量より質」だ。

先輩は、僕を慰めると同時に大人への入口を教えてくれたのだと思う。二十歳になっていない後輩を連れて行くなど、今なら法律違反で怒られると思うが、昭和の時代はそれが当たり前だった。働いていたら酒を飲むぐらいは大目にみてくれていたのだ。それに、先輩が後輩の面倒をみるという社風も当時は当たり前のようにあった。

愛子ともよく行った。二人で行くと初めは「穴子」「エビパン」は二人とも。その次は愛子は「レンコンの肉詰め」ぼくは「ピーマンの肉詰め」が定番だった。「オランダ」と「ボンチキン」の区別がつかずいつも店の人に違いを聞いていた。懐かしい思い出だ。

つまり、先輩に連れられて行ってから55年も通っていることになる。

大阪市中央区道頓堀1-8-5
お問い合わせ 06-6211-2666

「お薦めする店」とは、ぼくは「文化の伝承」だと思うのです。先輩から後輩へ、もちろん親から子へです。そして、日本に来られた他文化の人にもお勧めしたい。お薦めする理由はいろいろあると思いますが食は文化なのです。

 

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